デザインとナレーションは似ている

井上 美穂
デザインのおはなし

筆者、デザインもしますが役者でもあり、それゆえにナレーションも担当させていただくことがあります。


最近、デザインと語りって似てるんだな、と気づくことがあったので今日はそんなお話を。

東京で、とあるナレーションスクールの説明会に出た時のことです。 そこで「いいナレーションに必要なもの」という名目でお話を聞いて非常に印象に残っている言葉があります。

それは

「華・品・毒」

この3点が備わっているのがいい語りだということでした。

ナレーションにおける「華・品・毒」

華とは言わずもがな、パッと目を引く華やかさがあること。 これは声の良さにも繋がってくる部分で、色気だったり、優しさ、力強さなど語り手と映像の内容により様々だと思います。 テレビナレーションにおけるこの華、とはテレビのチャンネルをパシパシ変えているときに思わずチャンネルを変える手が止まるようなある種の引力がある声や語りであるか、ということも含まれます。

次に品。
聞きやすい語りであるか、これはわかりやすいと思います。ナレーションでは、さらっと聞いてもちゃんと大切な内容が入ってくるかというのも重要なポイントです。

最後に毒。 これ、面白いですよね。これは実はちょっとしたスパイスのようなものです。 そこで聞いた話としては、赤ちゃんなどの特集番組などの語りでは実はわざと少しだけ意地悪っぽいニュアンスを混ぜた語りをするそうです。理由としては主な視聴者ターゲットが親子だからで、我が子がいる親にとって一番可愛いのは当然自分の子どもなので 「他人の赤ちゃんよりは自分の子どもが一番可愛いよねー」という心理に寄り添うためにテレビ側で紹介する子を少し下げた印象をほんの少し混ぜるというテクニックなのだそうです。 言わずもがなですが、ほんの少し、というのがミソですね。これは語りの技術が相当ないと難しいものなのでこういう要望を上手に反映できる語り手さんは重宝されます。

デザインにおける「華・品・毒」

さて、ではこの「華・品・毒」 デザインではどう置き換えることができるかというと。

華=目を引く一枚絵になっているかどうか。
品=情報が整理されていて必要な文字が目に飛び込んでくるか。余白処理が適切か。
毒=華と品を備えた上で少しの違和感を演出できているか。

華はわかりやすいですね。パッとみて素敵かどうか。商品の魅力をしっかり表現できているか。 そして、商品の魅力以上のお化粧がちゃんとできているかという点です。

次に品。広告である以上一番伝わって欲しいものは黙ってても目に飛び込んでくるようにデザインされているものがいい広告と言われます。そのための工夫がされているか、と広告全体でパッと読み流した際にすぐに内容が理解できるように文字が整理されているか。

毒は、違和感と表現できます。違和感というと変な感じがするかもしれませんが、これは演出に絡んだお話です。 わかりやすい例えとして騙し絵があります。遠近おかしくない?という違和感から絵をじっくりみますよね? 人はほんの少しの違和感を感じると逆に気になってそこに目が行くようになっているため、全体の美しさとバランスを担保した上で少しだけ違和感を感じるように設計してあげると結果的にたくさんある広告の中でうまく人目を惹きつけることができるようになります。

商業ツールであるがゆえの共通点

ナレーションとデザインの両方に共通するものとして、どちらも商業ツール、つまり視聴者に アクションを起こしてもらうためのもの、という大前提があるわけでしてクリエイティブでありながらそこには必ず意図が計算されている必要があります。

これがいわゆるデザインはセンスじゃなくて、論理思考だぞ、と言われる所以ですね。

ナレーションも実は同じで役者さんで言葉が美しく話せるならナレーションができるか、と 言われると必ずしもそうではない。

仕掛け人の意図を汲んで要望に応える語りができること。つまり間にちゃんと視聴者の心理誘導を計算した自分なりの演出プランが入っており、そのプランに応えるだけのテクニックが発揮できるか否か、というのが重要だったりします。

だから、広告側はここまで反映できるナレーターを使うか、そうでなければいっそ存在自体が目を引く流行りのタレントさんを使ってしまうのはこれが理由です。有名人の語りっていうだけで人は聞きますからね。最終目標は商品を買ってもらうことや視聴率を取ることなのでその目的に近いものを採用するのは当然のことと言えます。

今回はちょっとした趣味の記事にも近いのですが、自分の仕事にこういう共通点が見つかると面白いですよね。 デザインやナレーションをされている方にとってもちょっとした発想の転換やヒントになれば嬉しいです。